あなたが空港で何気なく通過している自動化ゲートや、搭乗口でスマートフォンをかざして確認するフライト情報。そのスムーズな体験の裏側では、メガバンクの金融システムにも匹敵する、極めて堅牢かつ複雑なデータベースとネットワークが24時間365日、片時も休むことなく稼働していることをご存知でしょうか。
現在、世界の航空業界はかつてない大きな転換点を迎えています。これまでの空港建設といえば、広大な土地に滑走路を敷き、巨大な鉄骨でターミナルビルを組み上げる物理的な「建設」が主役でした。しかし、現代における空港機能の拡張と進化は、システムによる「デジタルな統合」へと投資の軸足を急速に移しています。
この「デジタルの建設」を支えるのは、もはや土木技術者や建築家だけではありません。高度なITスキルを持ち、複雑なデータフローを設計・管理できるシステムエンジニアこそが、これからの空港の進化を担う真のキーパーソンなのです。
しかし、IT業界内では依然として「航空業界=レガシーで古い体質のシステム」という誤解が少なからず存在します。確かに、過去にはメインフレーム全盛の時代もありました。しかし現在は、クラウドネイティブ、マイクロサービス、生体認証、AI予測といった最先端技術が、非常に高い信頼性レベルで実装されるエキサイティングなフィールドへと変貌を遂げています。
本記事では、株式会社航空システムコンサルタンツ(ASCO)が手掛ける「空港DX」の最前線と技術的課題を深掘りし、金融系SEやWeb系エンジニア、そしてSIerでのPM経験をお持ちの皆様が、なぜ今「航空システムコンサルタント」として求められているのか、その理由を論理的に解説します。
空港は巨大なITシステムである:AODBとマイクロサービス化の潮流
現代の空港を、単なる飛行機の発着場としてではなく、一つの「巨大な分散型ITシステム」として捉え直してみましょう。その中枢、いわば心臓部に位置するのが、AODB(Airport Operational Database:空港運用データベース)と呼ばれる基幹システムです。
データのハブとしてのAODBとCDM
AODBは、空港内で発生するありとあらゆるデータの「ハブ」として機能します。例えば、季節ごとのフライトスケジュール、当日の運航状況、駐機スポット(バース)の割り当て、チェックインカウンターのリソース管理、手荷物搬送システムのルーティング情報など、運航に関わる全てのデータがここに集約されます。
かつて、これらの情報は航空会社、空港管理者、管制、グランドハンドリング会社(地上支援)がそれぞれの自社システム内だけで管理しており、電話やFAXで連携が行われていました。これでは急な遅延や変更に対応できません。そこで現在は、全てのステークホルダーがリアルタイムで同一のデータを共有し、協調して意思決定を行うCDM(Collaborative Decision Making)という概念に基づいたシステム構築が国際標準となっています。
ここで技術的に面白いのが、データ形式の多様性と統合の難易度です。航空業界にはIATA(国際航空運送協会)が定めた特有のメッセージフォーマット(SSIM、ASM、SSMなど)が存在し、これらレガシーな電文と、最新のREST APIやJSON形式のデータが混在しています。これらを相互変換し、整合性を保ちながらリアルタイムに各サブシステム(FIDS:フライト案内表示システムなど)へ配信するアーキテクチャの設計は、非常に難易度が高く、エンジニアの腕の見せ所となります。
モノリシックからマイクロサービスへの脱却
ITエンジニアの皆様にとってさらに興味深いのは、空港システムのアーキテクチャが急速にモダン化している点でしょう。かつて主流だった、巨大なホストコンピュータによる「モノリシック(一枚岩)」な構成から、現在は機能ごとに分割されたマイクロサービスアーキテクチャへの移行が加速しています。
【従来のシステムと現代の空港システム構成の比較】
| 区分 | 従来の空港システム | これからの空港DX |
|---|---|---|
| 構造設計 | モノリシック構成(密結合) 改修時の影響範囲が甚大 |
マイクロサービス化(疎結合) 機能ごとの独立したデプロイが可能 |
| 連携方式 | 個別開発によるポイントツーポイント連携 スパゲッティコード化しやすい |
APIゲートウェイ経由の標準化された連携 ESB(Enterprise Service Bus)の活用 |
| インフラ | オンプレミスサーバー ハードウェア保守の負荷が大 |
AWS / Azure等のパブリッククラウド コンテナ技術(Kubernetes等)の活用 |
| データ処理 | バッチ処理中心 | イベント駆動型アーキテクチャ リアルタイムストリーミング処理 |
例えば、ある便の出発時刻が変更されたとします。この「イベント」が発生した瞬間、手荷物システム、搭乗ゲートの表示、アプリの通知、駐機場の管理システムへ即座に情報が伝播する必要があります。ここでは、Web系バックエンドエンジニアが慣れ親しんだイベント駆動型設計や、コンテナオーケストレーションの技術が不可欠です。レガシーな産業に見えて、実はクラウドネイティブな技術スタックが最も求められている現場の一つなのです。
ミッションクリティカル:金融系SEのスキルが活きる瞬間
Webサービス開発では「まずはリリースし、ユーザーの反応を見ながらアジャイルに修正する」というアプローチが有効な場合があります。しかし、航空システムの世界には、それだけでは通用しない領域があります。それは、システム停止が許されない「ミッションクリティカル」な側面です。
もし、主要な空港のAODBやネットワークがダウンしたら何が起きるでしょうか。数百便のフライトが遅延・欠航し、数万人の利用客が空港に溢れかえります。これは単なる不便では済まされず、物流の停滞による経済損失、さらには社会的な信用の失墜に直結します。そのため、航空システムには「24時間365日の連続稼働」と「限りなく100%に近い可用性(99.999%など)」が求められます。
金融システムとの共通項
ここで真価を発揮するのが、金融系SEの皆様が銀行の勘定系システム(入出金処理)や証券取引システムで培ってきた知見です。金融システムと航空システムには、驚くほどの共通点があります。
第一に、「トランザクションの完全性」です。銀行でお金の計算が1円でも合わなければ大問題になるのと同様に、航空システムでも「座席の二重予約」や「手荷物の行方不明」は許されません。大量のデータ更新リクエストをさばきながら、ACID特性(Atomicity, Consistency, Isolation, Durability)を厳密に保証するデータベース設計のスキルは、そのまま航空業界で通用します。
第二に、「冗長化とフェイルオーバーの設計思想」です。サーバー、ストレージ、ネットワーク機器の物理的な二重化はもちろん、アクティブ・スタンバイ構成の切り替え制御、データセンター被災時を想定したDR(Disaster Recovery)サイトの構築など、「絶対に止まらないシステム」を作るための設計ノウハウは、航空システムコンサルタントにとって必須のスキルセットです。
物理セキュリティとサイバーセキュリティの融合
さらに、航空業界特有の課題として「セキュリティ」があります。ここでは、情報漏洩を防ぐサイバーセキュリティの視点に加え、テロ対策などの物理的なセキュリティシステムとの連携が求められます。監視カメラシステム、爆発物検知システム、そして入退室管理システムがネットワークで統合されています。セキュリティエンジニアとしての経験をお持ちの方にとって、国の安全保障の一端を担うという、他では得られないやりがいを感じられるはずです。
グローバルスタンダードと日本流「おもてなし」の狭間で
株式会社航空システムコンサルタンツ(ASCO)のエンジニアが直面する、もう一つの重要かつ興味深い課題についてお話しします。それは、海外製パッケージシステムと、日本独自の業務品質との「ギャップ」をどう埋めるかというコンサルティング領域です。
現在、空港システムの主要なソリューション(チェックインシステムや搭乗管理システムなど)は、SITAやAmadeusといった海外メガベンダーの製品が世界的なシェアを占めています。これらは「グローバルスタンダード」として非常に優れた製品ですが、そのまま日本の空港に導入すれば済むという単純な話ではありません。
なぜなら、日本の空港業務は、世界でも類を見ないほどの正確さと、きめ細やかな「おもてなし」で成り立っているからです。例えば、海外のシステムでは「数分の遅れは許容範囲」として設計されている処理も、定時運航率世界一を誇る日本の空港では許されない場合があります。また、旅客への案内表示一つとっても、日本人ならではの細やかな配慮が求められます。
私たち航空システムコンサルタントの役割は、海外ベンダーが提供するパッケージの仕様を深く理解した上で、日本の空港会社(クライアント)が求める業務要件と照らし合わせ、「Fit & Gap(適合分析)」を行うことです。「ここはパッケージの標準機能で対応しましょう」「この機能だけは日本流にカスタマイズが必要です」「運用フローをこう変えることでシステムに合わせられます」といった、技術と業務の両面からの提案力が求められます。
このプロセスでは、英語でのドキュメント読解や、海外ベンダーのエンジニアとの技術的な折衝が発生します。語学力と技術力を掛け合わせ、日本の空港品質を守りながら世界の最新技術を導入する。このダイナミックな橋渡し役こそが、ASCOのコンサルタントなのです。
ASCOにおけるプロジェクトマネジメント:上流工程のプロとして
ここまで技術的な側面を中心にお話ししましたが、ASCOでの働き方は、一般的なSIerや開発会社とは少し異なります。私たちの立ち位置は、発注者である空港会社側の「技術アドバイザー」や「PMO(Project Management Office)」に近いものです。
自らコードをガリガリと書くことよりも、プロジェクトの全体像を描き、ステークホルダーを動かすことが主業務となります。
ベンダーコントロールの極意
空港のシステムプロジェクトには、多くの企業が関わります。大手電機メーカー(NEC、富士通、日立など)、通信キャリア、建築会社、そして海外ベンダー。これら多様なプレイヤーをまとめ上げ、プロジェクトをゴールへ導くためには、高度なベンダーコントロール能力が必要です。
SIerでのPM経験をお持ちの方であれば、「仕様の曖昧さによる手戻り」や「ベンダー間の責任分界点の押し付け合い」といったトラブルを経験されたことがあるかもしれません。ASCOのコンサルタントは、発注者の代理人としてRFP(提案依頼書)の作成段階から参画し、曖昧さを排除した要件定義を行い、ベンダー選定を支援します。つまり、プロジェクトの「最上流」で品質を作り込むことができるのです。
「下請け構造の中で、降りてきた仕様通りに作ることに疲れた」「もっとビジネスの本質や、システム全体のアーキテクチャに関わりたい」と考えている方にとって、このポジションは理想的なキャリアチェンジとなるはずです。年収レンジにおいても、こうした高度なマネジメントスキルは高く評価され、プロジェクトマネージャークラスの待遇(700万〜1,200万円程度)で迎えられるケースが多くなっています。
コードで空を飛ぶ仕事
これからの空港建設は、「デジタルの建設」と同義です。物理的なターミナルビルを作るのと同じくらいの熱量と予算、そして重要性を持って、情報システムの構築が進められています。
あなたの書いた要件定義書が、ある日は数万人のチェックインをスムーズにし、ある日は航空機の安全な離発着を支え、またある日は空港での楽しい買い物体験を創出します。自分が関わった仕事の成果を、実際に空港という場所で、多くの人々が利用している姿として目の当たりにできる。これは、BtoBのシステム開発ではなかなか味わえない、航空業界ならではの醍醐味です。
金融業界で培った堅牢な設計スキル、Web業界で磨いたモダンなアーキテクチャの知識、SIerで鍛えたプロジェクト推進力。そのすべてが、日本の空を支える力になります。
「航空業界は未経験だから」と躊躇する必要はありません。ASCOには、異業種から転身し、それぞれの得意分野を活かして活躍している航空システムコンサルタントが多数在籍しています。最先端の技術と、絶対に止まってはならないという使命感が交差するこの場所で、新しいキャリアを築いてみませんか。
あなたのITスキルを、日本の空へ。
株式会社航空システムコンサルタンツでは、空港業務のDXを推進し、次世代の空港を共に創り上げる仲間を募集しています。
現在、金融系SE、Webエンジニア、PM経験者など、航空業界未経験からのチャレンジを積極的に歓迎しております。「自分の今のスキルが、空港のどんなシステムに活かせるのか知りたい」というご相談だけでも構いません。まずはカジュアルにお話ししてみませんか?あなたからのご連絡をお待ちしております。